2022年7月15日の米国小型成長株インデックス(Russell 2000 Growth)は、1076.27で終わりました。一週間前に比べ21.76ポイントの反落(-1.98%)でした。主要インデックスのNYダウ(前週末比-0.16%)やSP500(前週末比-0.93%)よりやや大きな下落でした。
CPIが前年同月比9.1%増という、歴史的な上昇率を示したことからFRBの金利引き上げが1%になるのでは?という懸念から一時下落しました。しかし、原油、非鉄金属や穀物価格がピークからかなり下落していることから、インフレはピークアウトしていくとの希望的な観測も広がり、株式市場の下落は限られました。さらに、金曜日に発表された小売売上高が予想より強く、「インフレは今後ピークアウト、経済はさほど悪くないのでは?」という見方から、株式市場は反発しました。結果的に、一週間ではやや下落となりました。
今週発表されたCPIの伸び率は非常に高く、消費者も投資家もセンチメントは最悪です。商品市況はかなり下がっています。一方、個人の懐ぐあい(現金勘定)はかなり余裕があります。労働市場もまだそれなりに堅調です。そして今週発表の小売り売上もまだ強い数字です。リセッションが来るのか?それとも景気は予想外に底堅いのか?
先週のコメントを再び書きますが、
ベストシナリオは、コモディティや半導体は、仮需が剥げてインフレはピークアウトするものの、労働市場は堅調で、景気はあまり悪くならない。
ワーストシナリオは、コモディティ市場や半導体市場は今後の需要急減を予測しており、強烈な景気後退が来る。
今週の相場は、前半はワーストシナリオ、金曜日はベストシナリオで揺れました。まだしばらく、強気と弱気の攻防が続きそうです。
私は、景気の実態はあまり悪くなく、センチメントだけが異常に悪化していると思っております。
<ウクライナ侵攻>
世の中の関心はかなり下がってきています。
ロシアはじりじり侵攻地域を広げ、ウクライナは欧米の武器を使って抵抗を続けています。戦況に大きな動きはありません。G20財務省・中央銀行総裁会議も、相変わらず共同声明も出せず、欧米主導は効かない状況が続いています。
全て膠着している、という感じです。
次の展開を決めるのは「ウクライナの財政問題」と思っています。ウクライナの財政赤字はすさまじい金額(月50億ドル)であり、いつまで西側諸国が支えられないことが明確になりつつあります。
早く戦争を終わらせないと、ウクライナは経済破綻します。しかし、早く戦争を終わらせるには、ウクライナに領土的譲歩を迫る必要もあります。難しい局面になってきました。
<バイデン政権とインフレ>
ついにバイデン大統領はサウジアラビアの皇太子(ムハンマド・ビン・サルマン皇太子、通称MBS)と会談しました。しかし、海外のメディアの報道をみると、あまり良い結果は得られなかったようです。8月3日のOPECプラスのミーティングの結果を待ちます。
<中国:フローとストック>
バイデン大統領のサウジ訪問に比べるとあまり注目されていませんが、重要性という意味では、以下の2つのニュースの方を注目すべきと思っています。
・中国で、完成しないマンションを買っていた人が、住宅ローンの支払いを停止した
・中国がお金を貸し込んだスリランカが完全に経済破綻した
この2つのニュースは、同じ原理で行われた経済行動が同じ結果を出した、という意味で重要だからです。
一般的に国の経済規模はGDPで表現されます。GDPの定義は「一定期間内に国内で産み出された物やサービスの付加価値の合計」とされています。そして、それを生み出す有効需要は「穴を掘って、それを埋め戻し」ても、増加するとされています。
要は、「賃金が払われて、人が働けば、何のための労働であっても経済は成長する」ということを意味しています。フローの世界では、これでOKです。(使用した建築資材等についても、その生産、加工、輸送に使われた人件費+利益等の総計になります)
しかし、長期的にはフローではなくストックが大事になります。「賃金を払って人を使って何を作ったか」この「何か」が重要なわけです。この点で、中国のマンションと途上国でのインフラ投資は、共通の性格を持ちます。
作っている段階ではGDP貢献します。(海外のインフラ投資も、中国の政府・金融機関が貸して、中国の建設会社が作ります)しかしその結果が、人が必要とする以上の数のマンションや、人が住めない未完成マンション、ほとんど使われない高速道路や鉄道の場合、「フローとストックの問題」が大きくなります。
2008年のリーマンショックの場合、返済能力に欠ける人に金融機関が貸し込んで不動産を持たせました。このため、不動産価格が値下がりしたとたん、金融機関が担保割れに見舞われました。担保割れした不動産は「完成しているが、割高な不動産」だったからです。日本のバブル崩壊による金融危機も同じです。「担保の不動産が下落した」事が原因です。
中国の場合は、さらに厳しい状況です。作り過ぎた大量のマンション在庫+完成すらしていない大量のマンション、という状況だからです。金融機関が担保にしているのは、「売れ残りのマンション」+「担保価値ゼロの建築資材の組み合わされた塊」です。
「未完成物件への住宅ローン不払い問題」を解決するには、中国政府が銀行にプレッシャーをかけて、マンション開発会社にさらに融資させ、マンションを完成させる必要があります。既にマンション在庫が大量にあるにもかかわらず・・・
マンション在庫が大量にある環境下で、経営破たんしているマンション開発会社に追い貸しする?それとも、未完成マンションの住宅ローンが不良債権となることを甘受する?
中国政府はどちらも問題が発生しないように解決しろ、と圧力をかけてきます。
本当なのかどうかわかりませんが、「中国には34億人分のマンション在庫がある」とも言われています。ANZによれば、完成前の住宅ローンの残高は1兆5000億元とのことです。
一帯一路で貸し込んだ途上国に、大量のインフラ投資の結果出来上がった「ビル、道路、鉄道、港湾・・・等々」も、作り過ぎたマンションと同じ性格を持ちます。「作る過程で生み出す有効需要」は良かったのですが、出来上がった「ストック」は不必要(あるいは必要とされる量をはるかに上回る、利用料では返済不可能)な物です。
中国のかかわる事業の、フローとストックのいびつな関係、は共通しています。
ストックの問題は、「金額が大きく、影響は長期に及ぶ」という性格があります。
中国経済の規模を考えると、世界経済への影響も確実にあります。今後の行方が非常に気になります。
<小型成長株相場とラッセル2000グロース VS SP500 >
2022年7月15日時点の、ラッセル2000グロース÷SP500は1076.27/3863.16=27.86%
26週移動平均との乖離は-0.26%でした。
ラッセル2000グロース÷SP500は、2013年から長期的に32%~38%のレンジで推移してきました。2020年12月中旬にこのレンジを一次上に離れ43%まで急上昇しました。しかし、その後継続的に下落し、レンジの下を抜けました。
この3ヶ月ほど、27%程度の水準で横ばいを続けて、底入れから反発していくのでは?と期待しています。
→ 2020年1月以降の小型成長株とS500の相対比較の推移
→ 小型成長株関連投資信託のパフォーマンス(2022年5月末時点)
(過去の市場コメントは、「アメリカ成長株(米国成長株)市場」)
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