アメリカ成長株:ストラクチャー・セラピューティクス(Structure Therapeutics)の概要
ストラクチャー・セラピューティクス
Structure Therapeutics Inc
ティッカーコード:GPCR
上場市場:NASDAQ National Market System
業績についてのリンク
https://finance.yahoo.co.jp/quote/GPCR/annual
ストラクチャー・セラピューティクス社は、心血管疾患、肥満、糖尿病、特発性肺線維症(IPF)など、高い医療ニーズがある疾患のための経口小分子薬を開発しています。
治療薬を大まかに分けると、タンパク質でできた抗体薬やペプチド薬(小さなタンパク質)のような“高分子薬”と、アスピリンやイブプロフェンのような“小分子薬”の二種類があります。
高分子薬は分子量が数千~数十万までの巨大分子であるのに対し、小分子薬は分子量が数百以下の小さくて簡単な構造の分子です。
高分子薬にはターゲットだけに選択的に作用する能力が高く、代謝されにくいため効果が長く続くという利点がありますが、開発や製造のプロセスが複雑でコストが高い、不安定で冷蔵保存が必要、投薬は注射・点滴になるなどの欠点もあります。
一方、小分子薬には製造コストが安い、開発期間が短い、錠剤の飲み薬にできる、常温で保存できるなどの多くの利点があり、可能ならば小分子薬の形で提供できる方が有利であるのは間違いありません。
同社はすでに高分子薬が存在する疾患において、似たような効果を持つ小分子薬を開発することに特化しています。
現在公表されている同社の主な開発薬は以下の3つです。
・GSBR-1290(第一相臨床試験を終了し、第二相に入るところ)
ターゲット:GLP-1R(グルカゴン様ペプチド-1受容体)
対象疾患:2型糖尿病と肥満
・ANPA-0073(第一相臨床試験が進行中)
ターゲット:APJR(アペリン受容体)
対象疾患:特発性肺線維症(IPF)および肺動脈性肺高血圧症(PAH)などの心肺疾患
・LTSE-2578(臨床試験の前段階にあり、新薬臨床試験開始申請中)
ターゲット:LPA1R(リゾホスファチジン酸受容体)
対象疾患:特発性肺線維症(IPF)などの心肺疾患
最も臨床試験が進んでいるGSBR-1290はインスリンの分泌を促すもので、血糖値を下げて食欲を抑える効果が期待されています。
これは今、ダイエット薬として世界中で引っ張りだこになっているGLP-1R作動薬の一種です。
現在のGLP-1R作動薬のほとんどが注射剤であり、飲み薬はノボノルディスクファーマ社が開発したリベルサス錠だけで、巷では“飲むだけで痩せる薬”として大人気となっていまいす。
GSBR-1290は、これに続く第二の経口薬として期待されていますが、第一相試験では、体重減少に有効であるという有望な結果が報告されています。
高分子薬を小分子薬に置き換えることは、安価な薬を手軽に使える患者、患者ケアが軽減される医療従事者、低コストで開発・製造できる製薬会社、社会保障費が抑えられる行政の四者全てにとってメリットがあります。
同社は既存の高分子薬を小分子薬に置き換えることだけに注力していますが、この手法は一から病気の原因を探ることから始めてターゲットとなる物質を特定し、その分子のどの部分を攻めればよいかを探る多大な手間と費用を省けるという点で優れています。
メリットの多い小分子薬で既存の高分子薬を出し抜くという非常に賢い戦略と言えます。
高分子薬に代わる小分子薬の開発は、そう簡単にできるものではありませんが、同社の人工知能を使った強力な小分子薬の開発システムがそれを可能にしています。
これは分子間相互作用の視覚化、計算化学、データ統合を組み合わせた最新の開発プラットフォームで、薬剤分子の設計プロセスを人工知能で大幅に効率化するものです。
従来は大量の化合物を実際に合成してターゲットに結合するものを選び出す実験を行っていましたが、コンピューターと人工知能による選定によって事前に候補となる化合物を絞り込めるようになったのは大きな進歩です。
高分子薬に代わる小分子薬として開発され成功した例としては、前述のリベルサス錠の他にも前立腺ガン治療剤であるエンザルタミド錠(アステラス製薬)や抗悪性腫瘍剤であるパルボシクリブ錠(ファイザー)などの経口抗がん剤があります。
同社の開発薬がこれらの仲間入りできるかどうか、今後本格的に行われる臨床試験の結果を待ちたいと思います。
会社ウェブサイト
www.structuretx.com
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